瞑想つれづれ日記⑨ 箸が転げても

瞑想つれづれ日記①-

闘病中の友人と再会した。

彼女は関東に、私は九州の田舎町に、普段は遠く離れて住んでいるが
彼女は親に会いに
私はセミナーや子どもたちに会いに
それぞれが帰省、上京したタイミングでこれまでも頻繁に会っていた。
なまじ同郷に住む友人知人よりも共にいる機会は多かったかもしれない。

それが、コロナで叶わなくなり
そして彼女が病気になった。

闘病を続けている最中の友人との再会は
これまでとは違って、私も少し改まった気持ちだった。
顔を見るまでは「何と声をかけたらいいのか。きっと何も喋れなくなるじゃないか」と少し心配だった。

でも、それは杞憂だった。
彼女は以前より少し瘦せてはいたものの
げっそりやつれた印象はなく
そして、相変わらず優雅で明るかった。

今回、実家を売りに出すことにした彼女は
その手続きと思い出の品を持ち帰るため帰って来たらしい。
医者には反対されたと言うが、思い切って決断したそうだ。

彼女の荷物は、段ボール箱が一つと
おじいさんの代から使っていたというヴィンテージ物の革のトランクだけ。
後は、全て人にもらってもらうか処分だと言う。
私は車を出して、彼女が必要とする手伝いをした。

様々な副作用に悩まされ
食欲もあまりないはずの彼女の
どこにそんな力が残っているのかと不思議なくらい
彼女は力強かった。

一通りの用事を済ませて、私たちは夕日を見にドライブに出かけた。
水平線の向こうには大きな太陽が
これからのショーの始まりを告げるように輝いていた。

写真好きの友人はいつもにも増してパシャパシャと・・・。
写真のセンスがない私はちょっと控えめだ。
「水平線が斜めに写っているとがっかりするのよねぇ。」
「この花を手前に・・・それからこう・・・夕日を入れたらどう?
あ!ほら、それなりに写るよ。」と笑う。

そして、ツーショット写真を撮ろうと誘ってくる。
私は自分の顔を写真で見るのがあまり好きではない。
特に歳をとってからはなおさらだった。

すると彼女は「私ね、この頃たくさん自分を撮ってるの。」と言う。
私は何も考えず「どうして?」と聞いてしまった。

「遺影になるものを厳選してるのよ。」
胸がギュッとなる。
「よし!撮ろう!」

だが、これがなかなかうまくいかない。
どちらかが目をつぶってしまったり、視線が泳いでいたり
自動シャッターがうまく作動しなかったり
やっと撮れたかと思えば、どちらかが気にくわなかったり・・・

もう腹を抱えて笑った。
お腹がよじれるほど笑った。
最近こんなに笑ったことがあっただろうかと思うほど笑った。
乙女の象徴のような「箸が転げても・・・」そんな笑いの連続だった。

還暦過ぎのおばさんが二人
夕日をバックにキャーキャー言いながらお腹を抱えて笑っている図は
周りから見ればさぞかしおかしかったろう。

「これだけ笑えば免疫力もきっと上がったに違いない!」と友。
そうだね、と返す私。
階段を上りながらの会話に彼女の息は乱れる。

太陽がいよいよ海に沈んでいく瞬間はいつもながら静かだ。
高台で二人、無言でショーの終わりを見届けた。

帰りの車の中で彼女は現在の病状を話してくれた。
治療の効果で縮小している病巣は
いつ活動を再開してもおかしくないらしい。
その治療も心臓の負担が大きいため
あと1回で終了しなければならない。

今年になって認可された治療法もあるが
医師には「好きなことをしてください」と言われたらしい。

一時期は眠れないほどの不安と後悔に襲われたという彼女は
「もう、わからないことは考えないことにしたの。
今は、今日一日を楽しむことだけを考えてる。」
そう言った。

その後、食事があまり美味しくないのだと言う彼女の前で気が引けたが
昼食抜きだった私は、空腹に耐えられず肉を頬張った。

別れ際、手を握った。
楽しかったー!
また必ず会おうね!
今年は私が上京する約束をした。

本当に楽しかった。
なのに、家に帰りついた途端
涙が止まらなくなる自分がいた。

心底楽しかったのに
私は泣いていた。

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「嫌なことが一方にあっても、今自分が得ることのできる楽しみを味わうことが大事です。
自分なりのそこにしかない喜びを見つけてください。
楽しみ喜ぶことによって、人は最大の生命力を発揮することができます。」金井系一郎

写真は友人のアドバイスを受けて
私が撮ったものです。

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